『肩 - その機能と臨床 第4版』 書評
吉川秀樹(阪大大学院教授・整形外科学、大阪大学医学部附属病院長)
整形外科医として、また人生の先輩として私淑する信原克哉先生の『肩- その機能と臨床』の初版が出版されたのは、昭和54年である。小生が医師になって整形外科を始めた年であり、特別に感慨深い。その後、肩関節外科を含め整形外科学は急速な発展を遂げ、本書も、改訂を重ねた。2001年改訂の第3版は、“THE SHOULDER - Its Function and Clinical Aspects”として英文翻訳され、2004年、英国医学会のHighly Commended Orthopaedicsを受賞している。このたび、待望の改訂第4版が出版された。第3版以後の約10年間にわたる膨大な研究成果や文献が新たに取り入れられている。
本書の第一の特徴は、膨大な内容であるが、共著者のいない信原先生の単独執筆であるという点である。先生独特の奥深い洞察、機知に富む解説が随所に散りばめられ、医師として、人間としての豊富な経験、風格からにじみ出る文章であり、実に味わい深い。この第4版は、大きなサイズ(A4判)に改められ、大変読みやすくなっている。現代的にビジュアル感覚を重視し、ふんだんにカラー写真、漫画、イラストレーションが駆使されている。なかでも、江戸時代の肩脱臼整復図、ゼロポジションの解説に引用されている布袋像や絵画の美女、長頭腱と骨頭の動きを解説したロープウェイ写真などは、特に印象的である。また、カラー写真14枚による腱板修復術の手術所見などは、動画を見ているが如く臨場感があり美しい。
本書のもう一つの特徴は、67ページにわたる第9章の『肩とスポーツ』の充実である。信原病院敷地内に設立されている運動解析スタジオと三次元運動解析システムの研究成果が、多くの画像、イラストとともに掲載されている。本章のみで、「投球動作と投球障害」の教科書として出版しても世界最高レベルであると言っても過言ではない。さらに本書の末尾には、古文献から最新の論文まで、和文、英文合わせて実に2296件の肩に関する文献が網羅されている。この貴重な資料を駆使すれば、長い歴史の中で、肩に取り組んだ世界の研究者たちの足跡を辿り、その業績を渉猟することができるのも有り難い。
本書は、40年以上に及ぶ信原先生のライフワークを凝集したものであり、肩の歴史、解剖、バイオメカニクスから、診察、診断、外科治療、リハビリテーションまで、一連の大河ドラマのように綴られた珠玉の名著である。肩関節外科医はもちろんのこと、一般整形外科医、理学療法士、看護師の他、肩の診療、研究、教育に関わるすべての医療従事者に推薦する。
|